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1978/7/17 思わぬ幸運が重なって、S.F.Bay を一望できるこの家を手に入れた。当時は家の前の道路には電柱があり、電線をリスが綱渡りする日常があり、太い松の木が何本も湾の風景を遮っていた。ところが1992年だったかに、大規模な山火事が起こり、道路を隔てた海側の家がすべて焼失してしまったのだ。山の上にある貯水槽は、麓の電線が焼けたため、消火活動に役立たず、消防署は山の上に立っている家は燃えるに任せるしかなかった。

 火災後、松の木と電柱がなくなった風景は一変して、ベイエリアがほとんど180度眺望できるようになった。電線や電話線が全て地下に埋められて、それまでほとんどが木の瓦であった家々は、市の条令で不燃材に葺き替えられた。何年に一度かのフェーン現象が火災の原因だったそうで、道路を隔てた我が家は、燃えずに残ったのだった。

 年間を通して住んだのは数年だが、家は入手して今年で39年目ということになる。7/8月は夕方から霧が発生する天然冷房で、日中25℃前後の快適さのお陰で、ぼくの頭もまだなんとか働いている。そこで、ここに住む夏場には日本の生活では想像もつかない具合に、ぼくの頭脳が不思議に文学的な発見をさせてくれる。『漱石の変身』(2009)も『日本語の深層』(2011)も、そのようにして成った。

 <『源氏物語』深層の発掘 秘められた詩歌の論理>(笠間書院2015)の副産物として、いま『紫式部集』のちから相撲 メイキング・オブ・『源氏物語』の版下を<InDesign>というソフトで作っている。ある出版社に出していた拙稿が、売れそうもない(マユツバもの?!おぼかた・はるお?作、あるいは、こんないかがわしい本を出したら、会社の汚点になるかも)という理由で断られたので、それならばと、自分で本屋をすることにしたのだ。

 この本は、過去1000年間誤読されてきた『源氏物語』が、どのようにして成立したかを、わずか128首の和歌(とその詞書)だけで物語るという、紫式部の「ちから相撲」(空前絶後の超絶技法)を、これまた1000年間、誰も発見できなかったという内容の、ぼくとしては会心の作なのだ。この本の価値を見抜けなかった件の出版社は、あとで臍を噛んでもシラナイヨだけれど、自分で出版のすべてをコントロールできる快感をいま味わっている。乞ご期待。 

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コメント: 1
  • #1

    渡辺義人 (月曜日, 25 7月 2016 17:14)

    サンフランシスコの家は幸運をもたらす家なんですね!私も一度行ってみたいです。ところで今日も紫式部集を眺めていたのですけど、何かつかめそうではっきり出てこなくてお産の苦しみをあじわっているようです。先生の本が出版されるまで一応頑張ってみるつもりですが、楽しみにしています。今年の東京の朝晩は涼しく過ごし易いですが8月に入ると例年通り暑くなりそうです。